2006年4月9日（日）　礼拝説教要旨
説教者：高田 厚 師

聖書箇所：ルカの福音書23章33〜39節

[33]「どくろ」と呼ばれている所に来ると、そこで彼らは、イエスと犯罪人とを十字架につけた。犯罪人のひとりは右に、ひとりは左に。 [34]そのとき、イエスはこう言われた。「父よ。彼らをお赦しください。彼らは、何をしているのか自分でわからないのです。」彼らは、くじを引いて、イエスの着物を分けた。 [35]民衆はそばに立ってながめていた。指導者たちもあざ笑って言った。「あれは他人を救った。もし、神のキリストで、選ばれた者なら、自分を救ってみろ。」 [36]兵士たちもイエスをあざけり、そばに寄って来て、酸いぶどう酒を差し出し、 [37]「ユダヤ人の王なら、自分を救え。」と言った。 [38] 「これはユダヤ人の王。」と書いた札もイエスの頭上に掲げてあった。 [39]十字架にかけられていた犯罪人のひとりはイエスに悪口を言い、「あなたはキリストではないか。自分と私たちを救え。」と言った。

説教要旨

イエス・キリストの十字架の光景。この時、3つの立場（兵士・民衆・指導者）の人々が、十字架上の主イエスに取った態度に、私たちは何を見るでしょうか。

まずローマ帝国の兵士たち。彼らにとって、主イエスは単なる反ローマ的政治犯として理解されていました。この罪人をいかに手際よく刑に付するかが彼らに課せられた仕事でありました。この兵士たちが、十字架上の主イエスに対して「ユダヤ人の王なら自分を救え」とのことばを発しましたが、このことばは皇帝カイザルだけが王だと考えている彼らの軽蔑を込めたあざけりでした。自分の仕事にのみ価値を置き、関係ないことに対しては無関心な人々の姿が描かれています。

次に民衆（町の人々）。「民衆はそばに立って眺めていた」とだけ記されています。もともとこの人々はローマ帝国に支配されていた当時の状況の中で、政治的・経済的・精神的にも抑圧されていましたから、数々の奇蹟を行われた主イエスを政治的な解放者（救い主）として見なしていたのです。民衆にとっての最大の関心は、自分達の健康や生活の事でした。しかし最終的に主イエスが彼らの期待に応えてくれない人物とわかると、主イエスに失望し、主イエスを十字架につけることに賛同し、そして十字架の前でただ無気力に立ち尽くしていたのでした。いつも自分にとって都合よく価値基準を置き換えていく人々の姿が描かれています。

さて、これらのグループ以外で、この光景を見てこのうえもなく喜んでいる一団がいました。「指導者たちもあざ笑って・・・」と記されている民の指導者達です。この人々にとって、主イエスは自分たちの体制に逆らい、自分たちの立場を脅かす存在であったのです（ヨハネ11章47〜53節）。主イエスの民衆に対する影響力の大きさに危機感を強めた彼らは、最終的には主イエスを殺す計画を立てるようになりました。そして、彼らの努力の結果？として死刑が確定し、長年目の上のたんこぶであった人が、十字架上で今にも死にそうにしている姿を見て、喜びと勝利の思いに満たされていたのでした。ここに自分の立場と利益を守ることに価値を置き、そのためであれば何でもする人の姿が描かれているのです。

これらの人々が主イエスに言ったことばの中には、共通のことば「自分を救ってみろ！」がありました。このことばは、彼らの霊的無知（盲目状態）から発せられた言葉でした。彼らは、主イエスが彼らの罪を身代わりに負うことで、彼らを救う事を知りませんでした（イザヤ53章7〜8節)。さらにイエスさまは本来、簡単に十字架から降りることもできたのですが、彼らを愛するがゆえに、あえて留められていたことをも知らなかったのです。

以上、この「十字架をとりまく人々」が、キリストの十字架の姿を目の前で見ながらも、実際に価値をおいていたものは、この世での生活でした。ここにすべての人の罪の姿がはっきりと現されているのです。ここにあるのは罪によって心の目が完全に閉ざされていることによる人間が罪人であるという事実です。しかし同時に忘れてはならないことは、神は私たちが価値を置かなかった石・見捨てた石を通して、私たちの救いを成し遂げてくださったという神が救いのわざを成してくださったという事実です。「家を建てる者たちの見捨てた石、それが礎の石となった。」（詩篇118篇22節）との御言葉はここに成就したのです。