2006年4月2日（日）　礼拝説教要旨
説教者：高田 厚 師

聖書箇所：マルコの福音書4章35〜41節

[35]さて、その日のこと、夕方になって、イエスは弟子たちに、「さあ、向こう岸へ渡ろう。」と言われた。 [36]そこで弟子たちは、群集をあとに残し、舟に乗っておられるままで、イエスをお連れした。他の舟もイエスについて行った。 [37] すると、激しい突風が起こり、舟は波をかぶって、水でいっぱいになった。 [38]ところがイエスだけは、とものほうで、枕をして眠っておられた。弟子たちはイエスを起こして言った。「先生。私たちがおぼれて死にそうでも、何とも思われないのですか。」 [39]イエスは起き上がって、風をしかりつけ、湖に「黙れ、静まれ。」と言われた。すると風はやみ、大なぎになった。 [40]イエスは彼らに言われた。「どうしてそんなにこわがるのです。信仰がないのは、どうしたことです。」 [41]彼らは大きな恐怖に包まれて、互いに言った。「風や湖までが言うことをきくとは、いったいこの方はどういう方なのだろう。」

説教要旨

嵐の湖を静めるこの出来事は、主イエスの働きの中で自然界に対する最初の奇蹟でした。この出来事の焦点は、権威ある主の奇蹟の業を通して普段出てくることのない人の内面（恐れ・絶望）が浮き彫りにされていくところにあります。

この箇所においてまず、主イエスは弟子たちを“新しい出発”へと招かれています（35〜36節）。「さあ、向こう岸へ渡ろう」（35節）この主からの呼びかけは意味のある招きでした。それまでの弟子たちは主イエスの数々の奇蹟を見てきましたが、必ずしもその当事者ではなく、また沢山の教えを聞いていましたが、聞いた知識が信仰にまで結びつけられていなかったのです。主イエスはそのような弟子たちに訓練の必要があることをご存知でしたので、信仰の訓練へと招かれたのでした。

時は夕方でした。主イエスの招きに応じて舟を湖に漕ぎ出した弟子たちを待ち受けていたものは“突然の危機”でした（37〜38節）。彼らはこの時、存在の土台が揺り動かされる危機に直面したのです。弟子たちにこの危機をもたらした原因はガリラヤ湖特有の嵐でした。彼らの中には漁師出身者もいましたが、この時の嵐は特別だったようです。

その理由としては、<1>漁師の専門的知識・熟練した経験が全く役に立たない状況であったこと。「舟は波をかぶって水で一杯」（37節b）。<2>ガリラヤ湖を生活の場としていたペテロやヨハネにも死の恐怖を味わわせるほど強烈だった。「おぼれて死にそう」（38節）、等の様子があげられます。

そして、それだけでは終わらず、彼らはこの時、信仰の危機も経験していたのです。いま、弟子たちの漕いでいる舟は、主である方が、「行こう」と言って漕ぎだした舟でした。しかし嵐のときパニックに陥っていた弟子たちは、頼りになるはずの主イエスの少々以外とも思える姿（眠っておられた）を見て、よけいにあわてふためきました。

「何とも思われないのですか」（38節）（直訳『私たちに関心はないのか』）。主イエスが弟子たちに対して無関心であるかのように思える状況の中で、精神的にも動揺し、苛立ち、自分を見失い、ついには主御自身に対する信頼が揺らぎ始めてしまったのでした。

人は、このような突然の危機（外面的危機）に直面したとき、人はそれまで表面に表れてなかった自分の心のうちにあるもの（内面的危機）をさらけ出すに至るのです。弟子たちがそのことをすっかり忘れきっているときに、“今、生きておられる主”が起きあがりました（39〜41節）。この方はすぐさま圧倒的な力を伴う権威を持って嵐を静められたのでした（39節）。

「どうして、そんなに怖がるのです。信仰がないのは・・・」（40節）。嵐を静められ、なぎになった湖でイエス様が弟子たちに問われているのは、ご自身に対する信仰でした。弟子たちは、このような経験を通して、信仰とは現実生活の中で主を信頼することだということを知ったのでした。そのために、あえて主イエスは、弟子たちがこのような状態になることを許されたのでした。

信仰とは“絶望”と“信頼”を繰り返し経験していくことを通して強められ成長していくものなのです。嵐を通して弟子たちは、改めて自分たちと共にいて下さるイエス様がどのように偉大で、力に満ちたお方であるかを体験において知ったのでした。この弟子たちを取り扱ってくださった主イエスは私たちをも同じように取り扱ってくださいます。「さあ、向こう岸へ渡ろう」。この呼びかけは私たちへの呼びかけであり、全ては御言葉への服従から始まっていくのです。